近年わかってきたこと:菌は“すみやすい環境”がある
私たちの口の中には、数百種類以上の細菌がすんでいます。これらは、善玉菌(常在菌)と悪玉菌(虫歯菌や歯周病菌など)に分けられますが、それぞれに“好む環境”があることが、近年の研究で明らかになってきました。
その鍵となるのが「pH(酸性・アルカリ性の指標)」です。
悪玉菌は“酸性環境”が好き
虫歯の原因菌として有名なミュータンス菌(Streptococcus mutans)や、歯周病を引き起こすPorphyromonas gingivalis(P.ジンジバリス)などの悪玉菌は、酸性の環境を好みます。
たとえば、糖分を摂取したあと、口の中が酸性に傾くと、
- ミュータンス菌が活発になり、
- 酸を作ってエナメル質を溶かし、
- 虫歯が進行する
という流れになります。
これを「酸産生性(acidogenic)」や「耐酸性(aciduric)」と呼びます。つまり、酸の中でも平気で生き延びる悪玉菌が、酸性環境でますます勢いを増すのです。
善玉菌は“中性〜弱アルカリ性”を好む
一方、善玉菌(常在菌)は、酸性環境では増えにくく、中性から弱アルカリ性の環境で安定的に活動することがわかっています。
代表的な例:
- Streptococcus salivarius(サリバリウス菌)
→ 口臭を抑える働きがあり、酸に弱い - Actinomyces naeslundii(アクチノマイセス菌)
→ プラークの初期定着に関与。中性環境で活性
口腔内が中性〜弱アルカリ性に保たれていれば、これらの善玉菌が活性化し、悪玉菌の増殖を抑える“バリア”として機能するのです。
バランスが崩れると「口腔内フローラ」が乱れる
このpHと菌の関係は、腸内環境と似ています。「口腔内フローラ(菌叢)」のバランスが崩れると、虫歯や歯周病だけでなく、全身への影響も出てくる可能性が指摘されています(※近年は「オーラルマイクロバイオーム」とも呼ばれています)。